Prologue

おぼえてる?

覚えているか?

おまえは忘れろ。

やっぱり忘れられない。

忘れるべきなんだ。

忘れたくない。

忘れろ!

忘れない。

忘れていない。



君は覚えているか?

Chapter 1:アカとブルー

オリシア上空。

少女たちは戦っていた。少女たちはみな10代。浮遊機と呼ばれる機体に乗った少女たちの眼下———王立国家オリシアの首都は炎に包まれつつあった。そう、彼女たちの故郷が。

「どうして———こんなの……!」

仲間たちの乗った浮遊機が次々と撃墜されていく光景に、少女は歯を食いしばる。撃墜された機体はそのまま街に落下し、炎に飲み込まれる。このまま撃墜されれば自らが街を破壊してしまう。いや、それもまた敵の狙いなのかもしれなかった。彼女は敵を引きつけるように、その間をすり抜け、海上へと向かう。海なら、撃墜されても街を破壊することはない。

敵はクロ・グウロと名乗る男だった。彼はオリシア国民の粛清を宣言し、クーデターを起こした。それ以外のことはなにもわからない。

ただ彼女たちが知っているのは、彼が敵であり、無数の機体で街を破壊しているということ、そして彼女たちが戦っている敵の機体は無人だということ。無人機の容赦ない攻撃に本当の戦いなど知るはずもない少女たちの浮遊機が敵うはずもなかった。アーカイア戦争と呼ばれた20年前の戦いを少女たちは知らないのだ。知っているのは訓練だけ。だがそれでも彼女たちは出撃せねばならなかった。それがオリシアの最期の抵抗———最終作戦だった。もはや兵士と呼べるような者たちはオリシアに残ってはいない。最後の砦として彼女たちは出撃した。

「絶対に、守る……!」

海上へと出た浮遊機を操縦する少女の名はブルー。海と同じ色の髪と瞳を持つ少女だった。空と海の青が視界のほとんどを支配する中、ブルーの前に雷撃のような紫が現れる。

「……ッ!」

思わず息を飲んだブルー。その紫———紫色をした機体には見覚えがあった。首都上空で何人もの仲間たちを撃墜した機体だ。通称、紫の悪魔。恐ろしいほどのスピード、そして威力。無人機とは動きが違った。

無数の弾がブルーの機体めがけて放たれる。

避けきれない……!

その瞬間ブルーが取った行動は、自らの機体を敵へと向けて直進させることだった。

この紫の機体だけでも墜とすことができれば———!

自らの機体———いや命と引き換えにする道をブルーは選んだ。一瞬紫の機体の動きが止まったようにさえ見えたのは最期を選んだせいだろうか。

激突の衝撃がブルーに伝わる。

だが、負けたのはブルーの方だった。

バランスを失った機体が海へと落ちていく。

ブルーの意識とともに。

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Text by 金巻ともこ